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2014年6月26日 (木)

『恋歌(れんか)』 朝井 まかて

62ユリの花の蕾が開いた。
キッチンにあかるい。

    *

水戸藩といえば、天下の副将軍・水戸黄門様。
そのすまいにも行ったことがある。質素なお屋敷であった。

幕末から明治の怒涛の時代を生きた女性の話。

その時代の、日本国中の混沌とした様は、今までもいくつかの話の中で、それぞれの立場で語られるのを読んだ。

水戸藩のこの争いについては、「天狗党」という名前は知ってはいたが、詳しくは今回初めてだった。

歴史的にどうなのか正確なことは分からない。受験で日本史を選択したと言ってもこんなものである。え?私だけかな。

       *

63 夫のふるさとは水戸から水郡線という電車でコトコト行った福島県の町で、
10年ほど前には、両親の介護看病に何十回と乗り換えた懐かしい駅である。
 

義父を見送り、母を見送るまで10年ほどだったろうか。
水戸という駅はそんな縁のある駅であった。
 

単線の線路を行く電車。
いつも窓に顔をくっつけて外を眺め、楽しいことを見つけつつ、たいていは、3泊4日で往復をしていた。
 

私には田舎がなかったから、子供たちともども、とてもうれしかった。 

子供が小さいときは川で釣りをしたり、山に蝉を取りに行ったり、
思い出はいっぱいで、
その延長として介護にも行っていた気がする。私はそこが大好きだった。
 

ローテーションで10年ほど通った。5人の兄姉たちがいたからできたことである。

     *

さて、思い出話は置いておいて、この本の感想です。

生真面目な水戸藩の人(本にそう書いてあった)ゆえ、妥協できず、藩の中が割れて、恐ろしい争いになる。日本中が、激しく揺れ動く時流の中でひたすら愛を貫いた登世。

しかし、その生活はつらいものとなる。

その中に一筋貫かれた主人公の恋。

瀬を早(はや)み 岩にせかるる 滝川(たきがは)の
   われても末(すゑ)に 逢はむとぞ思ふ
」(崇徳院)

すべてはこの歌に込められ、始まる。

もう少しだけ、
滝川の水として、一緒に同じ川を流してあげたかった、とつくづく思う。

 「川の瀬の流れが速いので、岩にせき止められた急流が2つに分かれていく。しかし、それがまた1つになるように、愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会しようと思っている。」

 武士の家の奥では、なくしもの、探し物の場合に、この歌を紙に書いて、貼ることがあったという。

悲惨な死に方をした人たちの辞世の句
分かる人にはわかる、悲しみと別れの歌。

蓮歌のようにその辛さが歌によって紡がれていく。

恋歌であるけれど、恋愛小説ではなく、もっと強い信念を持った
魂の叫び。

牢の部分は、辛かった。なぜあのように相手を憎むのか、
やられたらやり返す。その負の連鎖。

武士がかたき討ちを許されて、それを果たすと、そこで成功した本人も命を捨てることで、負の連鎖はとまる、と有った。

それが大人数だと果てしがないのだ。個人ではなくなるから。
個人の尊厳も無くしてしまうのか。

武士の都合で始まった戦いに巻き込まれ、その中でも凛として辞世の句を読みながら打たれていく武士の妻たち。

そういう時代だったと言えばそうなのだが、何か解せない100年後の私。

しかし、淡々とした美しい強い心がそこにはあった。150回直木賞受賞作品

面白かった。

愛を貫いた、貫き通した歌子の代表作に心が震える。

「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ」

    *

出張から帰ってきた夫に
「天狗党」って知ってる?と聞くと
「うん、うちの町にも惨殺の場所とかの碑があったよ。」
「そういえば、見た気もする。」
あの時ちゃんと意識にとどめておけばよかった。かな。

    *

作者はこの代表作から物語のテーマを考えたらしいが、
調べたら、中島歌子さんの一生はこの通りだった。

巧みな構成で読ませる。まだ、余韻が残っている。

直木賞を取ってくれてよかった。
でないと、単なる恋の話として、私の守備範囲からは外れていたと思う。

内容(「BOOK」データベースより)

  幕末の江戸で熱烈な恋を成就させ、天狗党の一士に嫁いで水戸へ下った中島歌子。だが、尊王攘夷の急先鋒である天狗党は暴走する。内乱の激化にともない、歌子は夫から引き離され、囚われの身となった。樋口一葉の歌の師匠として知られ、明治の世に歌塾「萩の舎」を主宰し一世を風靡した歌子は、何を想い、胸に秘めていたのか。落涙の結末!
講談社 (2013/8/22) 290p 41

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コメント

『恋歌』という題名だけ知っていてスルーしていましたが、レビューを拝見していますぐにでも読みたいと思いました。
図書館経由なのでいつになるか。。。
「天狗党」のことは吉村昭さんの本で読んだことがあるのと樋口一葉の師匠の中島歌子さんのことも何かで読んだことがあったのでよけいに興味を惹かれました。

前半部分の介護に10年ほどの日々を介護に通われたことを何気なく書かれていたのにもとても惹かれました。
いちさんご一家のやさしさがやさしさを生むという巡りに納得です。

投稿: VIN | 2014年6月26日 (木) 10時05分

買い物から帰ったら
VINさんのコメントがありました。
このブログの半分は念頭にVINさんを思い浮かべて
書いていた気がします。
いつか図書館からやってきたときの、感想が楽しみです。
お気に入るといいのですけれど。

各駅停車でトコトコと家から5,6時間ぐらい。
中学から大学まで、子供たちにも背中で見せてこられたかな、と思っています。
ただ、話し相手がいないため、帰ってくると怒涛のように出来事を話し出して、子供たちは次々とその犠牲になっていました。途中で聞き役をタッチされているのを見て気が付いたり。懐かしい思い出です。

投稿: いち | 2014年6月26日 (木) 13時13分

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