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2014年1月26日 (日)

『夏の嘘』 ベルンハルト・シュリンク

今朝は穏やかで静かな天気の日曜日です。
と思ってベランダを見たら、軽いものが場所を変えていました。風が強かったのでしょうか。

いろいろとやることがあり、私は忙しい。心だけ。

     *     *

今回読んだ本は、「朗読者(Der Vorleser、1995)」がベストセラーとなり、「愛を読むひと(The Reader)、2008」として映画化もされた。その作者による二冊目の短編集。

激しい言葉遣いで、ダイナミックに語りかけるものではない。落ち着いた文の中に、くっきりと情景が浮かび上がってくる。

1行でも飛ばすわけにはいかない、と気付く。

次第にこの作品のよさを理解し、大切に読み進んでいくのだ。

どれもが心の奥深くに秘められた互いの気持ち、真実を言えないこころ、立場の違い、互いの行き違い、などが引き起こす物語である。

      *     *

最後の作品、「南への旅」も印象に残った。次第にその本の中に引きこまれていたからであろう。

それは「生きる希望を無くし、少しひねくれた老婦人が孫娘の勧めにより、かつて自分を捨てた男に会いに行く。
嫌がりながらも、会って、わかったことは、自分が捨てられたのではなく、自分が親の決めた、自分と同じ環境の、裕福な男を夫に選び、貧しい学生であった恋人の元を去ったという事実でした。
その結果、今は決して幸せではない毎日を送っているのです。彼女は不幸だった自分の結婚生活を他人のせいにし、都合よく事実を曲げて思い込んでいたのだ、」と言う話。

自分に都合よく事実を誤認して最後まで生きていく、そういう生き方も幸せなのかもしれない。
最後まで自覚しなければ。
これはクリスティの「春にして君を離れ」(そのブログ)と同じ方向かもしれません。  

 

      *       *

「嘘」と言うことばでひとくくりにするけれど、それは様々な次元のものです。

コメディっぽいドタバタ喜劇から、ミステリアスなものまで。

父と子の、ドイツの有名なリゾート地であるリューゲン島へのバッハを聞く旅の話も心に深く染み入るものでした。

そういう、7つの短編から成り、シンプルだが、一つ一つ丁寧に畳み掛けていく文の連なりで表現されている。

だから、読んでいく、そのある時から、自覚して丁寧に読むことになったのである。

最後まで読んで、「朗読者」より、印象的に思った。面白かった。

作者は今も大学で教えているという。それがこの作品の中にちらっと、その影が垣間見える。

ゆっくり味わえる時間がある人に、お勧め。 7

内容紹介

小さな嘘が照らし出す、かけがえのない人への秘められた思い。十年ぶりの短篇集。避暑地で出会った男女。疎遠だった父と息子。癌を患う元大学教授。人気女性作家とその夫。老女とかつての恋人。機内で隣り合わせ、奇妙な身の上を語り続ける男――。ふとしたはずみに小さな嘘が明らかになるとき、秘められた思いがあふれ出し、人と人との関係が姿を変える。ベストセラー『朗読者』の著者による、七つの物語。
2013/2/28

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コメント

サンディさんの感想を読んで、ああ読みたい!と思ってよーく調べてみたら、読んだ本でした

「春にして君を離れ」は本当に味わい深い本でしたね。
私もこのタイトルと共に忘れられない本です。

投稿: つっさん | 2014年1月28日 (火) 11時34分

こんにちは
そうですか、読んでいましたか。
どこかで「春にして…」と同じ、と言う話を読みまして、
その時は、あまりピンとこなかったのですが、
自分でこれを書いているうちに
「そうかこういうことが同じだった」と思いました。
取り扱い方が違いますけれど、ね。
今年もいい本に出会いたいものですね。よろしく。

投稿: いち | 2014年1月29日 (水) 10時35分

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