« 幸せの干し柿 | トップページ | 母との電話で »

2013年2月 7日 (木)

『五十鈴川の鴨』竹西寛子  *

読書ブログのⅤさんのお勧めの本。

いつもしっかりした感想を書かれるⅤさんご本人が去年の1位というのだから、これは読まねば。

最初読み進めた時は、

するりと何事もなく進んで行けてしまうので、

これはもっとしっかり時間をかけて、読んで行かなければなるまいと、

自戒して、(ミステリではないぞ、と、)

丁寧に、(とはいっても寝る前にではあるが)、読んだ。

 

 

なるほど

読み終えて、静かな感動というか情緒が、今も漂っている。

薄い色彩の、それでいて澄んだ風景がそこにはある。

そんな静かな風景が心に迫る。

しかも、読みながらというよりは、読んだ後でよりしみじみと。

 

 

 表題の「五十鈴川の鴨」で「いいなあ」と呟く彼の心情。

のどかな時間が流れる中でつぶやいた一言。

しかし、この「いいなあ」には自分が考えもしなかった思いが込められていたのだ。自分も思わず「いいなあ」といったのだが。違っていた…

そのことに、「私」は一年以上経って、女客の来訪から気づかされた。

 人が苦悩を背負って生きていて、しかもそれを声高に言うのではなく、ひとりある決心をして生きている。

 そこにたまたま、偶然あった淡い交わり。

隠されていた、というわけでもなく、潜んでいた真実。

そして、最後にはあなたに伝えたかったという話。

人は生きていく間に多くのことを体験する。その中で、さまざまな出会いや別れに出会う。そんな中の一つの小さなエピソードかもしれないが、互いにきらっと光る一瞬だったということだ。

 

そんな一瞬が、饒舌ではない、読んでしまえばあっという間の短い文に、凛として書かれている。

他の編も趣あり、「木になった鳥」での「自分に見えても人には見えないものは、見たことにならないのか。…」という子供の気持ちの部分はとても理解できた。

年を重ねて生きる、いわゆる老人世代夫婦の別れや悲しみが多く書かれている。

「雲間の月」の母が病室で目覚める風景もよくわかる。

しかし、「五十鈴川の鴨」の余韻が、より秀逸だと私は思った。

ここを出発点にして、方向を変えて他の作品の話は進んで行ったように思われる。


多くの編に流れるもの。
生きていくことはただ、流されていくことではない。

たとえ、今そうだとしても、じっと振り返れば、見つめれば、そこにあるものは無力感やあきらめばかりではない、その底には今まで生きてきた人生の積み重ねがしっかりと存在している。
それを悲しむのではなく、慈しみこれからも生きていくのだという心情。

そういう作者のこころが、行間からあふれ出てくる。

本の装丁にも深い愛が。読書会、朗読にもいいかな。

 

静かな空間で、それぞれの情景を思い浮かべながらゆっくりと読み進めていくことの幸せ。共有する思い。

読後感も、なんだろう静謐?、ため息が出そうな、自分の思いに深く入り込める品格のある、文章であった。

次第に作者の筆遣いにも慣れ、その中に浸っていける。

五木寛之さんがコラムで、本書について、紹介しているという。
「原爆をあつかって、これほど静謐な小説を私はこれまで読んだことがない」と。

日経新聞のインタビューで、作者は次のように語っているという。

 「人知れず被爆の後遺症に悩んでいる人は多いんです。その数の多さが、私にこの小説を書かせた。5年前の作品ですが、いま原発の事故が起こってみると、この主人公は、まだ死にきれない、過去の人にはなれない、と思った」と。

 

こんな文章を書いてみたい、が無理だろうなぁ。

私おしゃべりだし・・・

「勁さ」…読めなかった漢字「つよさ」

いい本を教えてくれてありがとう。Ⅴさん、あーんど、トコさん

1位と言われなければ、私は手にはできなかった。

おりしも2011、8月出版 12冊目

五十鈴川ってあの川ですね。きれいだったけど、そこにも意味があるのでしょうね。うーん ふかい、深読みしすぎ?

|

« 幸せの干し柿 | トップページ | 母との電話で »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

むむむっ!
何と素晴しい読後感なのでしょう。
こんな本を読みたい!…と思いました。
いつも読後感も拝見しています。
私は、こんな風に感じ取れるだろうか?
いつも、ありがとうございます。

投稿: かたつむり | 2013年2月 7日 (木) 10時39分

こんにちは
かたつむりさん
コメントありがとうございます。

お時間がありましたら、是非読んでみてくださいね。
最初は「うん?!」
最後はなんでしょう。「読んでよかったぁぁぁ」かな。
上質なものに触れられた、そんな実感

>私は、こんな風に感じ取れるだろうか?
聞かせてほしいです。

投稿: いち | 2013年2月 7日 (木) 11時51分

読んでくださって…アンド同じような余韻にひたってくださってとってもとっても嬉しいです♪
いちさんのレビューもすてきでした!
このような余韻の作品に出合うことはたくさんはありませんがこれがいつもいつもだとどうなんでしょうね?
きっとすぐ慣れっこになって磨耗しやすい私の貧弱な感性にひっかからず素通りするかも^_^;
ジェットコースターのようなミステリーありエンタメ満載のお笑い系ありの中にひっそりあったから良かったのかも&ある程度年を重ねたせいもあるでしょうね。

投稿: VIN | 2013年2月 9日 (土) 20時50分

おはようございます。

>出会うことはたくさんはありませんがこれがいつもいつもだとどうなんでしょうね?

確かに。
渦巻く日本語の文化の中で、いろいろなものを感じ
あらゆるところに
光を見出せたらうれしいなあ。

でも
この本の感動の美しさには思わず「上質」「上級」と
思ってしまったのは事実です。

そういうものが時々舞い降りてくる、その偶然の時を待ちましょう。

投稿: いち | 2013年2月10日 (日) 10時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 幸せの干し柿 | トップページ | 母との電話で »