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2009年12月11日 (金)

『サルガッソーの広い海』

NHKの再放送で作家池澤夏樹が語っていた。

ひとつの物語を裏から見て、
あるいはスポットライトの当たらないところに自分なりに光を当て、
それを主人公にして物語を書くことがあるという。
「ジェイン・エア」(1847)はみんなが知っていると思うが、その裏に当たる「サルガッソーの広い海」(1966)は私は知らなかった。

ジーン・リース(1890~1979)の作品。

池澤夏樹はこの小説について、その価値をこう述べている。
「翻訳が時代ごとに更新されるように、小説が小説によって上書きされることもある。名作『ジェイン・エア』を読んだ者は『サルガッソーの広い海』を読まなければならない(逆の順序でもいいけれど)。なぜならば前者には過去のイギリスがあり、後者には現在の世界があるから。」

奴隷制廃止後の英領ジャマイカ。土地の黒人たちから「白いゴキブリ」と蔑まれるアントワネットは、イギリスから来た若者と結婚する。しかし、異なる文化に心を引き裂かれ、やがて精神の安定を失っていく。植民地に生きる人間の生の葛藤を浮き彫りにした愛と狂気の物語。

夫に「バーサ」と呼ばれて、心が乱れていく「アントワネット」。
「バーサ」とはジェイン・エアで狂気の妻の名前である。

殖民地に生まれたものすべて思いを受け、その人種問題、文化の違いと偏見を、自分に背負っていきる人生として書かれているという。

ジーン・リースは純粋な白人ではなく、植民地生まれ、いわゆるクレオールであった。
それはとても強く彼女の中に疎外感として存在していたのである。
それでジェイン・エアでの前の妻のことを「植民地育ちの云々」と書かれた記述に引っかかりをもった作者が、
その妻を主人公に見立てた物語を書いたと言うのだ。
裏返しの文学、と池澤夏樹は言う。

ミステリなどは意図的にこうした仕掛けを1冊の中で作ることも多い。
しかしこの二冊は時代を超え、作者の目を変えてつくられている。
シャーロット・ブロンテという作者の意識の無いところで。

思えば確かに私自身も読書中にそういうことはある。
目立たない登場人物に光を当てその正確や生い立ちを考えてしまうことが。

しかし、そういうことが実際に文学上でなされていたことを面白く思った。
イギリス文学の傑作とその裏を見る文学。
そのためにこの主人公はどうなってしまったのか。
それはジェイン・エアに書いてある。

考えるだけじゃなく
実際に書くという行動を起こす作家はすばらしい。
純粋な文学と、社会的な意識をもって書いた文章と。
そこにはそれだけの意識の違いがあるようだ。
機会があったら読んでみたい。
ジェイン・エア (集英社文庫 フ 1-1)

灯台へ/サルガッソーの広い海 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-1) 灯台へ/サルガッソーの広い海 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-1)

著者:ヴァージニア・ウルフ,ジーン・リース
販売元:河出書房新社
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